DF64コーヒーグラインダーを購入して1ヶ月近く経ちました。購入直後動かなくて困りましたが、修理をしてからはその間ほぼ毎日使ってきております。
その間色々と動作を観察しているのですが、今回はDF64のリテンションとその改善方法について共有していきたいと思います。
DF64をお持ちでなんだかコーヒーの味が安定しないとか、投入した豆と出てくる粉の重さが違うとかでお困りの方はぜひこの確認・改造をしてみてほしいです。
DF64以外のグラインダー電動グラインダーをお持ちの方も確認すべき内容は同じなので参考になると思います
では、早速。
リテンションとは?
まずコーヒーグラインダーにおけるリテンションとは何か、軽く解説します。直訳すると「保持」って意味ですね。
毎回グラインダーに入れた豆を全て挽き切るシングルドースグラインダーではシンプルな話で、入れた豆の重さと出てきた粉の重さの差分です。要するにどれだけの豆がグラインダーの中で残ってしまうのかという話です。
ホッパーに豆をストックしておいて必要な分挽くタイプのグラインダーでも関係のある話です。この場合はちょっと測るのが難しくなりますが、同じようにグラインダーの中で挽かれた粉がどれだけ残っているかになります。ただ今回の記事ではDF64シングルドースグラインダーをイメージして書いていますので、その点ご了承ください。
当然ですが、リテンションは少ない方が良く、入れた豆が全て挽かれて出てくるのが理想です。
リテンションが多いと主に3つ困り事が起きます。
一つ目、レシピが安定しない。
せっかく豆の量をスケールで測って投入しているのに、その分正確に出てこないということはレシピの比率が狂うということになります。
グラインダーの中に粉が残ってしまうということは、入れた豆より出てくる粉が少ないことが多いですが、この粉は消えてなくなる訳ではないので時々ドバッと溜まった分の粉が出てきて、入れた豆の重さより多くの粉が出てくるということもあります。
出てきた粉の重さを再度測って調整することで課題回避はできますが面倒ですよね。。。
二つ目、挽き目調整後のパージが必要になる。
粉がグラインダー内に残っているということは、挽き目を調整した後、最初に出てくる粉は昔の挽き目設定で挽かれた粉である可能性があります。
狙った挽き目が出てこないので、エスプレッソの微妙な挽き目調整をしている時にいつまで経ってもふらふらと調整を続けるはめになるかもしれません。
またエスプレッソ用の極細とドリップコーヒー用の中細挽きを行ったり来たりしている場合はこの影響が更に大きく出ます。
これの解決法は挽き目調整をしたら、一度無駄に豆を挽いて、グラインダー内に残っている昔の挽き目の粉を押し出すことです。これをパージと言います。
パージを毎回すればいいのですが、面倒ですし、豆がもったいないですよね。。。リテンションが少なければここを気にする必要はなくなります。
三つ目、グラインダー内に残った粉が劣化する。
挽いて粉になったコーヒーは劣化が加速します。せっかく淹れる直前に豆を挽いているのに、一部グラインダー内に残って酸化が進んだ粉が混じったらよろしくないですよね。。。
ということで、グラインダーの性能の指標として低リテンションは非常に重要です。
DF64はどう?
DF64で豆を挽く時、入れた豆の重さと出てきた粉の重さを記録してきました。
DF64はポンプみたいに空気圧で粉を押し出すBellowsというものがついていますので、出てきた粉の量はBellowsをする前後で測ってます。
データとしてはこんな感じです。
リテンションはプラスの値の場合入れた豆より粉が少ない、マイナスの場合入れた豆より粉が多く出てきたことになります。
挽き目設定 | 投入豆 (g) | 粉 (g) Bellow前 | 粉 (g) Bellow後 | リテンション (g) |
---|---|---|---|---|
65 | 18.0 | 17.1 | 17.2 | 0.8 |
65 | 18.0 | 17.8 | 17.8 | 0.2 |
65 | 18.0 | 17.7 | 17.8 | 0.2 |
65 | 18.0 | 15.8 | 15.8 | 2.2 |
65 | 18.0 | 17.8 | 17.8 | 0.2 |
65 | 18.0 | 18.2 | 18.2 | -0.2 |
65 | 18.0 | 18.0 | 18.0 | 0.0 |
65 | 9.0 | 11.0 | 11.0 | -2.0 |
65 | 9.2 | 9.0 | 9.2 | 0.0 |
65 | 9.1 | 9.0 | 9.2 | -0.1 |
27 | 12.1 | 10.5 | 10.5 | 1.6 |
60 | 9.0 | 9.2 | 9.4 | -0.4 |
60 | 9.1 | 9.0 | 9.2 | -0.1 |
35 | 12.2 | 11.3 | 11.7 | 0.5 |
70 | 9.0 | 8.9 | 9.1 | -0.1 |
80 | 10.1 | 9.9 | 10.1 | 0.0 |
25 | 10.0 | 9.7 | 9.9 | 0.1 |
25 | 9.9 | 9.4 | 9.6 | 0.3 |
25 | 12.0 | 11.3 | 11.6 | 0.4 |
リテンションをグラフにするとこんな感じ。
ここからみてとれるのが、2gとか粉が止まってしまう場合もあるし、逆に2g余分に出てくることもあるということです。
ドリップで淹れる場合、私は9gで淹れることが多いのですが、そこで2gもズレてしまうとレシピが安定するはずありません。20%以上ずれますから。
エスプレッソ用にポルタフィルタに入れると見た目で気づくレベルです。
ぶっちゃけ酷いですね。。。
DF64はNo Retentionとして謳い文句が書かれていますが、とてもじゃないですがそうではないですね。。。
(一般的に0.3gぐらいのリテンションに収まればほぼリテンションなしと言えるレベルです)
じゃあDF64はダメダメなグラインダーで、私はしょぼいグラインダーを9万もかけて買ってしまったのか。。。
実はそうでもなくて、このDF64出荷状態ではリテンション酷いよってのは結構言われていることなのでそこまで焦りはなかったです。
どこに粉が溜まっているのか?リテンションが高い原因は?
原因を探るため、中の状態を確認していきましょう。
まず刃が入っているグラインドチェンバーを見ていきます。グラインダーの上側ですね。
矢印状になっているインジケーターリングを外して、更に黒い調整ダイアルを外します。
中はこんな感じでした
ぱっと見はそんなに溜まってる感じないけど、ん。。。?
出口がバチバチに詰まってるじゃないですか!どうやったらこんな詰まるんですか?
ということでこの出口(chute)の方も確認します。
そのためにはまずグラインダーをひっくり返して、このビスを取ります。
ポルタフィルターホルダー(フォークという)を外すともういっちょビスが出てくるのでこちらも取ります。
グラインダーの下の蓋も外して、6角ナットを回してこのスイッチを外します。
そうするとこんな感じでフロントパネルが外れます。
出口のシュートにもビスがあるので外す。
黒いプラスチックパーツを取ると、うぉ出てきた。
この透明なパーツをDeclumperと呼びます。
思いっきり詰まってるー!それにしてもどんだけだよ。。。笑っちゃいますね。
むしろ逆によく出てきてたな。。。
見て分かる通りですが、このDeclumperが諸悪の根源みたいです。。。
Declumperの役割というのは、文字通り塊(Clump)をほぐすというところにあります。刃で挽いた直後は粉が固まってしまうことがあるので、それをメッシュでほぐしてやるイメージです。もう一つ挽いた直後の粉の勢いを殺して、粉が飛び散らない様ににするという役割もあります。
DF64のDeclumperを詳しく見ていきます。ちなみに私のところに届いたモデルはVersion4みたいです。で、ネットで調べた限りこのDeclumperもV4で改善(?)されている箇所の一つとのこと。
2枚の透明なシートでできてます。割と硬い素材です。
挽かれた粉がこんな感じで押し出るイメージになるのですが。。。こりゃ詰まって当然ですわ。。。固すぎる。
Declumper改造:シートを1枚にしてみる
ということで、Declumperを改造していきます。
改造と言っても、入れるシートを一枚にして戻すだけなんですけどね。
なんとなくこの丸い方は意味が分からないので、右側の方だけを入れてみました。
戻す時に注意してほしいのが、このシュートを止めているビスです。
このビス実は刃が回転しているグラインドチェンバーまで穴が貫通していて、締め込みずぎるとビスの頭が突き出てしまって刃が回転しなくなります。
緩めに締めてあげるだけでもいいですが、それだと振動で緩んだり・しまったりするのが怖かったので、私は手元にあったM4サイズのナットを追加(写真 左)して締めました。
この改造の結果は?
挽き目設定 | 投入豆 (g) | 粉 (g) Bellow前 | 粉 (g) Bellow後 | リテンション (g) |
---|---|---|---|---|
25 | 10.1 | 9.8 | 10.0 | 0.1 |
25 | 10.0 | 9.8 | 10.0 | 0.0 |
25 | 10.1 | 9.6 | 10.0 | 0.1 |
60 | 10.0 | 9.6 | 10.1 | -0.1 |
60 | 10.0 | 9.4 | 9.9 | 0.1 |
60 | 10.0 | 9.5 | 10.0 | 0.0 |
25 | 10.0 | 9.4 | 9.8 | 0.2 |
25 | 10.1 | 9.8 | 10.1 | 0.0 |
60 | 10.0 | 9.5 | 10.0 | 0.0 |
60 | 10.0 | 9.5 | 9.9 | 0.1 |
55 | 9.0 | 8.4 | 8.8 | 0.2 |
20 | 12.2 | 11.4 | 11.8 | 0.4 |
50 | 9.1 | 8.9 | 9.4 | -0.3 |
50 | 9.2 | 8.6 | 9.1 | 0.1 |
15 | 12.1 | 11.4 | 11.6 | 0.5 |
50 | 9.2 | 9.3 | 9.5 | -0.3 |
13 | 12.2 | 10.8 | 11.5 | 0.7 |
12 | 12.2 | 10.5 | 11.5 | 0.7 |
40 | 9.0 | 9.1 | 9.6 | -0.6 |
12 | 12.2 | 9.8 | 11.3 | 0.9 |
12 | 12.1 | 10.3 | 12.1 | 0.0 |
50 | 9.0 | 9.5 | 9.8 | -0.8 |
13 | 11.9 | 11.2 | 11.5 | 0.4 |
52 | 9.0 | 9.2 | 9.5 | -0.5 |
11 | 11.9 | 9.5 | 11.3 | 0.6 |
60 | 20.2 | 20.5 | 20.8 | -0.6 |
60 | 10.0 | 9.6 | 10.0 | 0.0 |
11 | 12.1 | 11.0 | 11.3 | 0.8 |
70 | 9.0 | 9.3 | 9.7 | -0.7 |
結構改善しましたね。最初の方はかなり良かったのですが、だんだん増えていく傾向がありました。
とはいえ1g以下に抑えられる様にはなったので、出荷状態よりはかなりマシになりましたね。
もう一回中を確認してみます。
ちょっとやっぱり引っ掛かって残ってしまっていますね。でもかなりマシになっている気がするけど、まだ1gもあるのかー
とか思いながらシュート側も解体してみたら。。。あ。。。やってますね。なんでこんなところに固まってるの。。。?
あーこりゃ、まだだめだ。。。ここに溜まったり、どさっと落ちたりしているんですね。
再度改造:Declumperなし
ということで思い切ってDeclumperシート全部なしにしてみました。
なしと言ってもちょっともう一つ気づいたことがあったのでそれの対策を入れてます。
この気づいたのというのがシュートのパーツを横から見ると家の方にちょっと出っ張りがあるんですよね。
なので、何もシートなしで締め付けると隙間が残ってしまうんです。
そこで使ったのが、スペアパーツとして入っているこの白いDeclumper。
これV1時代に使われていたDeclumperでV4に入っている透明シートより分厚いけど柔らかいシリコンでできてます。
これもリテンションでかなり問題があったみたいで、メーカーさんの方も何度も改良を加えてるみたいです(成果はいまいちですが。。。)
このシートをそのまま使ったら状況悪化するの目に見えているので、シートを切って、完全に穴を開けちゃいます。
こんなイメージです。こうするとシュートの上側にもたまりにくくできそうですし、シュートとの間の隙間も埋められる。
この改造バージョンの結果はこちら。
挽き目設定 粉 (g) Bellow後 | 投入豆 (g) | 粉 (g) Bellow前 | 粉 (g) Bellow前 | リテンション (g) |
---|---|---|---|---|
29 | 9.2 | 8.8 | 8.9 | 0.3 |
60 | 9.0 | 9.3 | 9.3 | -0.3 |
60 | 9.9 | 9.9 | 10.0 | -0.1 |
60 | 10.0 | 10.0 | 10.0 | 0.0 |
60 | 10.0 | 9.9 | 10.0 | 0.0 |
60 | 10.0 | 10.1 | 10.1 | -0.1 |
25 | 10.2 | 9.9 | 10.2 | 0.0 |
25 | 10.0 | 9.9 | 9.9 | 0.1 |
25 | 10.2 | 9.9 | 10.1 | 0.1 |
25 | 10.1 | 9.9 | 9.9 | 0.2 |
25 | 10.2 | 10.0 | 10.1 | 0.1 |
60 | 10.0 | 10.0 | 10.0 | 0.0 |
25 | 10.0 | 9.9 | 10.0 | 0.0 |
60 | 10.0 | 9.8 | 9.9 | 0.1 |
15 | 12.1 | 11.6 | 12.0 | 0.1 |
50 | 9.1 | 9.2 | 9.2 | -0.1 |
11 | 12.1 | 11.3 | 11.7 | 0.4 |
45 | 9.2 | 9.5 | 9.5 | -0.3 |
45 | 30.0 | 29.9 | 30.0 | 0.0 |
42 | 9.0 | 9.2 | 9.1 | -0.1 |
43 | 8.9 | 9.0 | 9.0 | -0.1 |
いいですねー!
最大でも0.4gまでリテンションを抑えることができました。
これならほぼリテンションを気にしなくていいレベルと言えるのではないでしょうか。
それぞれの状態をもう一度並べてみるとこんな感じです。
明らかに改善しています。
なんで元々こうなってないの?
ここまで読んでいただいたら当然の疑問だと思います。
私ができる調査程度、当然メーカーさんの方でもやっているはずです(何倍も)。
じゃあなんでこの状態で出荷しているのか?
私の推測ですが、粉の飛び散りを最小化したいということなんだと思います。
Declumperなしで豆を挽くとこんな状態で、粉が静電気であちこちに飛び散ります。
(元々の出荷状態のつまりかたを見直してみると、あれだけ詰まっていれば飛び散るということもないですよね。)
ですが、これはちょっとした工夫で改善することができます。こちらの記事でも紹介したRDT(Ross Droplet Techinique)です。
やり方は簡単で豆にスプレーで水をちょっとだけ吹きかけるだけでOKです。
スプレーは100均で買えます。
これだけでDeclumperなしでもここまで改善します。
多少は飛ぶので時々掃除は必要ですが、リテンションが多い状態かたまに掃除のどっちを取るかと聞かれたら、私は確実に後者を取りますね。
今回も長々と書いてしまいました。最後までお付き合いいただきありがとうございます。
一応DF64で改造方法を紹介しましたが、別のグラインダーでも確認すべきもの、改善ポイントは似ている場合が多いと思います。RDTなども他のグラインダーでも有効です。
ぜひお持ちのグラインダーでもリテンション一度測ってみて、状況悪い様であれば改造を試してみるといいのではないでしょうか?
コーヒーの味が劇的に安定するかもしれませんよ。
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